光市母子殺害事件

なぜ君は絶望と闘えたのか

なぜ君は絶望と闘えたのか

本書を手にしたきっかけは、ドラマ「フルスイング」の原作
甲子園への遺言―伝説の打撃コーチ高畠導宏の生涯を読んだことに始まる。著者の独立後第一作であること、またこの事件に関心が少なからずあったこともある。
被害者の夫は製鉄技術者(製鋼技術者)であり、昨年学会の部会にて成果報告をおこない賞を頂いた旨学会誌にて記事があった。また、私と同年代でもある。私が大学にいた頃に事件は起こっていた。
この本の中で、私が感銘を受けたのは、彼を支えた職場および上司、製鋼工場長である。帯の言葉を引用する。

妻子を失った夫は、日々の生活への集中力や生きる意欲を失い、仕事に対する意味すら見出せなくなった。意を決して辞表を提出すると、上司は言った。
「この職場で働くのが嫌なのであれば、辞めてもいい。君は特別な経験をした。社会に対して訴えたいこともあるだろう。でも、君は社会人として発言していってくれ。労働も納税もしない人間が社会に訴えても、それはただの負け犬の遠吠えだ。君は社会人たりなさい」

こういうことはなかなか言えることではない。むしろそう言ったことに敬意を感じる。このような上司がいたことは、非常に恵まれた環境であったなあと思う。


本書を元にしたドラマがWOWOWにて秋にも放送されるらしい。現在も最高裁にて裁判が継続しており、ドラマ化されることにはまだ早いように感じる。